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繋がり

服部 剛

今日の心の糧イメージ

人は産声をあげるとき、母親のへその緒とつながったまま、この世に生まれ出てきます。へその緒が切られた後、人生の道を歩み始め、いつかは誰もが一人でこの世を去ってゆくでしょう。その日が来るまで、「目には見えないへその緒」が消えずにあるのでは? と思うことがあります。

例えば、母親というものは、子どもがどんなに大人になっても、「目に見えないへその緒」で子どもとつながり続けるように感じます。

私が学生の頃、母の日にプレゼントしたハンカチを、私の母は今もなお、使うことなく大切に引き出しの中にしまっています。結婚する前は、そんな親心を照れくさく思ったものですが、親許を離れた今となっては、心の中で〈ありがとう...〉と言えるようになりました。また、私の妻は亡き母親との楽しかった思い出をしばしば懐かしそうに語りますが、そんなとき、この世にはいない母と娘の心も「目に見えないへその緒」でつながっているような気がします。

生まれたときに1度、へその緒は切られても、人間は必要な誰かとのつながりを、心の中で生涯、求め続けるのでしょう。

重い肺炎の治療で入院中だった妻の父が、この夏亡くなりました。ある日、私が義父の元へ面会に行くと喜んでくれていましたが、妻の姿を目で捜しており、やはり長い年月を共にする娘を待っているのだな...と感じました。

休憩室のテーブル席では、入院している初老の男性が、面会に来た妻、そして娘と幼い孫息子とで、持参した食事を囲んでいました。互いの間に見えない温かな糸が、家族の間を結んでいる素朴な風景を目にする私も〈明日の誰かとつながりたい〉と、自分の心から放たれる糸の行方に思いを馳せるのでした。