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今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

21、2歳の頃、ある文学誌の賞の最終審査に残ったことがあった。

若い私は自分の実力もかえりみず、ひょっとしたら賞をもらえるかもしれないと期待に胸をふくらませた。

しかし、賞はいただけなかった。

そのとき、五島の父のいったことばを、50年も前のことなのに、私はよく覚えている。

「なんの、ミンコよい。神さまが決めることじゃのうて、人間が決めることじゃけん。そのうち、神さまがミンコの書く力ば認めてくれたら、人間どんも認めてくれるとたいね」

自分の娘に文学的な才能があるのかどうだかわからないのに、そういって慰めてくれた。「そうか」と私は納得した。

神さまが時期が早いと判断したのだなあと。

それ以来、何があっても、神さまがそうされたのだと思うことが出来、気持ちが楽であった。

息子が高校受験の折、第一志望の高校に受からなかった。息子は嘆き悲しんだが、私は息子にいった。

「あそこの高校はあんたに向かんかったんやわ。あんたが入れた高校が1番、あんたに向いてると思う。お母さんは神さまに、息子に1番向いてる高校に合格させてくださいといって祈ってたから。」

息子は別の高校に合格し、機嫌良く通った。

「おかあさん、あそこ、落ちててよかったわ。秀才ばっかりやから、ぼく入ってても劣等感感じてたかわからへんからね」と息子なりに納得したようだった。

競争社会で相対評価が当り前のようになっているが、私は相対評価は好きではない。

人間が人間をどう評価できるのかといつも疑問に思う。神さまが評価してくれると思うと気持ちが大きくなり、楽に生きていける。