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年を重ねる

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

講演のプランを立てていてふと、私はもう、話をする大学生の親に近い年なんだ、と気付いて唖然としたことがあります。それまでは、なるべく彼らに近い目線で話そうとしていましたが、この年齢ではもはやそれは不可能で、もっといえば不自然でしょう。

そこで正直に、私が学生だったのは1980年代で、みなさんと同じ年齢のときはこういう経験をしました、と話してみたのです。それを踏まえて、いまの現象についてはこう思う、みなさんにはこういう願いがある、と順を追って語りました。

案の定、学生さんからは「昔は大変だったのですね」とのコメントがきて、「昔って言わないでー」と悲しくなったりもしました。

でもそれ以上に、「経験を踏まえた発言に胸を打たれた」、「考えの根拠がはっきり分かって目からうろこだった」など、いま現在に視点をおいた反応が続々と返ってきました。単なる昔話として聞かれていなかったこと、何よりも、現在の私の気持をそのまま受け止めてもらえたことが嬉しく思えました。彼らにとって重要だったのは「いまの」私の考えや話であって、過去に重ねてきた年齢ではなかったのです。

さまざまな衰えから、年を重ねることには重荷が伴います。しかし、いまを生きることの大切さは、いくつになっても変わらないのではないでしょうか。学生さんたちは、そのことを思い出させてくれたのでした。

しばらくして、電車で乗りあった83歳の女性が、「きょうできることをする」と言っておられました。同感です。

いまが重なって年が重なるのです。だから、しっかりした「いま」を重ねていきたいと思います。