2017年07月20日の心の糧


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先取りする

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ 旧約聖書には、それぞれの時代に預言者が現れて、神の言葉を伝え、来るべき時について語っていたことが記されている。

だが預言者たちは遥か昔に、語り終えてしまったようだ。現代の私たちは自分の力で未来を予測し、先取りしながら日々を乗り切っていかなければならない。

ずいぶん昔のことになるが、結婚が決まって、相手のご実家に初めて招かれた時のことである。その数日前から私は緊張し、ご家族とのやりとりを予想しては、挨拶を考えたりしていた。季節柄、デザートにはりんごが出るような気がする。その時には上手に皮を剥いて家庭的なところをご披露しよう、とも思い、まずはりんごの皮剥きを練習した。当時の私は、実は料理ができず、りんごを半分に切ることさえ初めてである。悪戦苦闘していると、大人たちがやって来て「りんごはこう剥くんだよ」「いや、こうした方がいい」、と騒いだ挙句、沢山あったりんごを自分たちが剥いてしまった。おかげで私は練習不足のまま、婚約者のお宅へ伺ったのである。

デザートには予想通りりんごが出て来て、私は皮を剥いた。するとご家族の口からなぜか「あ・・あ・・あ・・」という悲しげな声がもれてくる。二切れ分の皮を粉々に削ったところで私は力が尽きた。「ちょっとお手洗いに行って参ります」と言って席をはずし、気合を入れて戻った時には、りんごはきれいに剥かれ、お皿に盛られていた。

未来を予測するだけでは足りない、その未来で発揮できる実力が必要なのだ。その日私は自分の心も手も未熟であることをひしひしと感じた。何といっても、付け焼き刃の技術で料理上手に見せかけようとしたのだから。結婚後、沢山のりんごをきれいに剥いたが、最初のこの一個が忘れられない。