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松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

私は今年で神父生活33年になります。そして、何時も思い出すのが、私が神父になり最初の恩師となった、稲田神父さんのことです。

稲田神父さんは、遠藤周作さんと遊び仲間だったそうで、稲田神父さんの還暦の時には、教会を訪ねてきてくれたそうです。

私の最初の赴任教会だったので、稲田神父さんは「すまんなあ、すまんなあ、俺が最初の主任神父で。」と謝って、「松浦君、人間最初の体験は、後をひくものなんだよ。君のこの1年間の教会体験は、君の一生の仕事の方向を決めてしまうかもしれない」とその後を続けるのが常でした。

その言葉の意味がわかってきたのは、私が神父生活を続ける経験の中からでした。生活にどのようにメリハリを付ければ良いか、何に注目して物事を見れば良いか、人と出会う時どこを見れば良いのか、子供達とどのように接していくのか、こういったことを、稲田神父さんと共に生活することで、最初の教会体験として自然に学んでいったようです。

毎晩9時に、必ず稲田神父さんは食堂で待っていてくれます。そしてお酒を片手に、11時頃まで、稲田神父さんの体験談が語られ、私はそれを楽しみにしていました。その一つ一つが今の私を形作っていたことに、時を経た今、びっくりしています。そこで話された内容に、稲田神父さんの精魂が込められていたことに、気付くことも良くありました。

稲田神父さんは、「私が最初の教会体験から学んだこと、それがあるから今君にこうして話しているんだよ」と語り、その体験は、30年も経った私に消化され、私も後輩達に、同じような人生の悟りを、生活を通して伝えている訳です。

それを見越したイエスの心が、私にも伝わっているのかもしれません。