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旅立ち

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

今から20年ほど前、新潟で1人暮らしをしていた姑が亡くなりました。2月のみぞれが降り続く寒い日でした。

姑が亡くなった、という知らせを義兄から受けると、私はすぐに子供たちを学校から帰宅させました。末娘の奏が最初に帰宅しました。中学3年生だった奏は、同居していた私の両親との別れに続いて、新潟の姑の死に大層ショックを受けていました。

私たち夫婦は奏を連れて、当時、暮らしていた横浜から新潟へ向かいました。長男長女は帰宅次第、出発することにしました。

新潟に到着すると、葬儀の準備に追われました。翌日が通夜、その翌日に告別式が行われました。

お骨になった姑に別れを告げて長男と長女は横浜へと帰っていきました。奏だけが残りました。私たち夫婦は葬儀の後始末のため、3日後に帰るつもりにしていました。

「お母さん、話があるの」奏が真剣な顔で言いました。

「私、お母さんたちより1日早く横浜へ帰るわ」

「一緒に帰りましょうよ。中学生の1人旅は心配だわ」

「大丈夫。私、もう子供じゃないんだから」

奏は頑固に言い張るのです。奏は自分を可愛がってくれた祖母の死に出会い、両親もいずれ死ぬ。それならば少しでも早く自立しなければと考えたようです。

その日、駅まで送っていきました。奏は生まれて初めての1人旅に不安そうな表情です。それでも1人で帰る決意は固いようです。

「気を付けてね」私が列車の窓に手を振ると、奏は新幹線の切符を握りしめたまま、にっこりと笑いました。

出発のチャイムが鳴り、列車が動き始めました。

奏は1人で横浜へと帰って行きました。この旅で自信を付けたのだと思います。奏は2年後、留学のためイギリスへ1人で旅立って行ったのです。