そんな体験があったせいでしょう。父も、母も家族揃って頂く食事というものをとても大切にしていました。特に私たち4人姉妹の誕生日には、家族揃って祝ってくれました。姉の誕生日には姉の好きなサバの味噌煮を、私の誕生日には、サツマイモで茶巾饅頭を作ってくれました。そんな母の心使いが嬉しくて、家族の誕生日が待ちどおしかったものです。
クリスマスの日になると、例年母はお祝いの食事を用意してくれました。父が頼んでおいたケーキも届きます。私の興奮は最高潮です。
私が小学4年のクリスマスイブのことでした。祖父が病で倒れ、父と母は、病院へ飛んでいきました。私たち姉妹だけが家に取り残されたのです。様々な御馳走と大きなケーキが用意されていました。
「仲良く食べなさい」父と母は言いました。しかし、夕食の時間になっても、姉妹だけでは食べる気持ちになりません。姉たちも妹も食べ始めようとは言いません。祖父の具合も心配です。いつも取り合って食べるケーキも手を付ける気になりません。
私は子供ながらに気が付きました。家族揃って祝うからこそクリスマスは楽しいんだ。家族がばらばらのクリスマスはなんと寂しいのだろう。クリスマスの夜は更けていきます。しかし、父と母は帰ってきません。こんな寂しいクリスマスイブは初めてのことです 夜の闇が深く、私たち姉妹を包むのでした。