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友好

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

夫の新井満が翻訳し曲を付けた「千の風になって」という歌が世の中に知られるようになって、10年の歳月が流れました。この歌を様々な方々がカバーして歌ってくれました。

私たちが嬉しかったのは、アイヌ民族の人々から、アイヌ語に翻訳して歌いたいと言われた時でした。それがご縁で、アイヌの方々と友人になり、親しくなりました。白糠という町に夫婦で招かれ、ごちそうになったり、アイヌの踊りを見せてもらったりしました。

日本ペンクラブ主催の平和の日・函館の集いには、アイヌ民族の人々に来てもらい、踊りや歌を披露してもらいました。夫と対談もしました。アイヌ文化の伝承者である秋辺日出男さんと夫は、一緒にアイヌの歌を作ろうということになりました。

アイヌ語に「イランカラプテ」という言葉があります。「初めまして今日は」という意味です。しかしその背後には、もしできることならば、あなたの心にそっと触れさせてください、という意味をも含んでいるのだそうです。それを知った夫は感動して言いました。

「素晴らしい。世界で一番奥ゆかしい挨拶言葉だね」

秋辺さんと夫は3年の歳月をかけて、歌を作りました。

〈イランカラプテ ー君に逢えてよかったー 〉

作詞は秋辺さんと新井満の合作です。作曲、歌唱は新井満が担当しました。この歌は見知らぬ人同士が出会った瞬間を歌っています。

現代人の出会いは、乱暴になりがちです。相手の気持ちも考えずにずかずかと土足で入っていくような所があります。そういう出会いとは正反対の控えめな出会いが「イランカラプテ」の中にあります。

友好的な出会いをするために、まずは相手を思いやること。奥ゆかしい「イランカラプテ」の心を忘れないようにしたいと思います。