訃報に接した私達は彼女にかける言葉もなく、妻は白い花束を買い求め、私は詩を添えた手紙を認め、深夜、車で彼女の自宅まで駆け付けると、それらを玄関先に置いて帰ってきました。
数日後、外出先の私に妻から電話があり、「彼女からお礼の写真とメールが届いて...花束に囲まれた遺影の隣に薄らと耕ちゃんの面影が・・・」。写真を見ると、確かに見覚えのある縞模様のぷっくりした体が写し出されており、ヤンチャな瞳で耕ちゃんがこちらを覗いているではありませんか。
最初の月命日。妻の携帯電話には久々に彼女から着信がありました。折り返した妻が恐る恐る写真の件を伝えると、彼女は気づいておらず驚愕、喪に服していた一カ月の暗黒の闇に光の出口が見えたかのように、微笑みの声を上げました。「耕助、今もいるのね」。妻から受話器を受け取った私に彼女は「入院先の獣医さんに『もう長くないでしょう』と言われ、せめて自宅で最期を過ごさせたくて胸に抱いて帰宅した際、ぐったりしていた耕助が急にカッと目を見開き私に顔を向けると、断末魔の鳴き声で叫んで・・・自分亡き後の私を『しっかりしろっ!』と叱咤するようだったわ」。
写真の姿とあの日の鳴き声----。肉体を脱いだ耕ちゃんが、これから彼女の人生の道案内役としてずっと一緒に歩いてゆくであろう姿が、私には温かな光と共に視えるのでした。