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新しいいのち

湯川 千恵子

今日の心の糧イメージ

木や草も芽吹く春となりました。我が家の小さな庭にも水仙などと共に雑草も生えてきました。敷石の間に生えた雑草を抜きながら、去年の秋にそこでけなげに咲いた野百合の花を思い出しました。

毎年、夏が終る頃、庭のあちこちに自然に生えた野百合が咲くのです。ところが、その敷石の間に生えた3本の野百合が小さな蕾のまま、秋半ばになっても咲かないのです。「あなたたちはもう咲かないの?」と庭に出る度、声をかけていたら、急に蕾が膨らんで、次々と花が咲きました。!

「置かれた場所で咲きなさい」という言葉そのままに、寒さの来る前に懸命に花を咲かせたのです。凜として気高く、余りに美しいので写真を取ろうとしたら、あいにく雨となり、暗くなりましたが、傘を差して撮りました。娘にメールで送ったら、「夜の美しさは怪しいほどですね!」と、感嘆の言葉が返ってきました。

遅れてゆっくり咲いた野百合の花たちは、ゆっくりと時間をかけて咲いたぶん、花のいのちが長いようでした。朝、雨戸を繰ると、生き生きと花のいのちを輝かせている3つの白い百合がぱっと目に入り、私の胸に新しいいのちを吹き込まれるようでした。思わず、「おはよう!今日もきれいね!」と挨拶している私でした。

 

そんな日が1週間余り続きましたが、やがて野百合の花は色あせてうなだれ、ついに枯れ落ちてしまいました。しかし、悲しいとか侘しい気持ちは感じませんでした。花の芯には来年咲く種が育っていて、新しいいのちを繋いでいることを想うと、希望が湧いてくるようでした。

何だか野百合と私は、日々新しいいのちをいただいて生かされている友達のような愉しい気分を味わいましたので、この春、また野百合の新しいいのちが庭のあちこちに芽生えてくるのが楽しみです。