▲をクリックすると音声で聞こえます。

新しいいのち

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

私たち夫婦が北海道へ移住し、羊を飼うようになって6年の歳月が経ちました。

羊は私たちのために、お乳や肉、その毛から作る衣類や毛布まで衣・食・住すべてを提供してくれます。春先に産まれた仔羊は、翌年の秋に発情し2年目の春に仔羊を産みます。

我が家の羊、ミミの話をします。ミミの初めてのお産は、夜中でした。私が朝早く羊小屋に行くと、お産はすでに終わっていました。仔羊は牡が2頭でした。1頭目の仔羊は死産でした。重さを量ってみると、4キログラムありました。もう1頭の仔羊が、母親羊の周りをうろうろしていました。兄に栄養を取られてしまったのでしょうか、重さは2キログラムしかありません。私がこれまで見たどの仔羊より小さな仔羊でした。生きているのが奇跡なほど小さいのです。それでも、お乳を飲もうと母親の乳房の方向へ必死に歩いていくのですが、初めて母親になったミミは、仔羊を舌でなめまわして転ばしてしまいます。仔羊はお乳を飲めないばかりか、ぐっしょり濡れ、寒さで震えが止まりません。外気温は氷点下10度です。仔羊は口の中まで冷たくなってきました。このままでは死んでしまいます。

私は思い切って仔羊をミミから離すことにしました。暖かい山小屋へ連れてゆき、段ボール箱に入れました。そして哺乳瓶にミミの初乳を入れると、仔羊の口をこじ開けて吸わせました。ほんの10シーシーほどでしたが、飲んでくれました。全身をタオルでふき、毛布を掛けてあげました。ストーブの前に段ボールを置くと、仔羊の震えはようやくおさまりました。

仔羊は立ち上がりべェーと鳴きました。それは生まれて初めての鳴き声でした。すると、遠くの羊小屋のミミがべー、ベーと答えました。母親になって初めての鳴き声はとても嬉しそうでした。