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新しいいのち

三宮 麻由子

今日の心の糧イメージ

子供のころ、家のベランダで遊んでいたら、壁に気持ちの悪い手触りのものを見つけました。丸い球の形に近いのですが、あちこちに皺があります。そしてごみの匂いがしました。

私の叫び声にあわてて見にきた母は、「あら、蝶々のさなぎ」といいました。理科の授業で、さなぎはしばらくじっとしてから成虫になると教わっていましたが、思えばさなぎそのものをしげしげと触ってみたことはありませんでした。

「さなぎって、かわいくないんだね」

これが正直な印象でした。それから日が経って、ある日曜日、家族で茶の間で過ごしていると、右手の甲の辺りにフワリと何かが触りました。ビロードのようでもあり、レースのようでもある、柔らかくて薄い何かでした。不思議に思って左手で探っていると、気付いた母が、「それ、蝶々」といいました。モンシロチョウが入ってきて、私の周りをフワフワ飛んでいたのでした。

蝶々と聞いて突然、あのさなぎの恐ろしい手触りを思い出しました。

「この前、ベランダにさなぎがいたでしょう。たぶんあれは、蝶々のさなぎだと思うわ。この蝶かもね」

私の心を覗いたかのように母がいうのでした。

きれいな蝶は、子供に触られ、においを嗅がれ、怖がられたさなぎ時代のことを思い出したりするのでしょうか。昆虫の記憶のことは分かりませんが、ひとつ思ったのは、この蝶はさなぎ時代の動かない姿勢をさっぱり卒業し、いまや飛ぶ生活を始めているのだということでした。自分の姿が変わったことをものともせずに。

人生のなかで大きな経験をすると、私たちも蝶のように、ある段階をガラリと打ち捨てて前に進むことがあります。それは、新しい命といえるでしょう。変わる勇気があれば、新しい命はそこにあるのだと思います。