それまでもイエズスさまの苦しみのお姿を黙想しつつお祈りをしていたが、ーーこの時ヴェロニカという女、群衆のうちより走り出で、主に布を捧げければ、主は御みずから御顔を拭い、尊き御面影を布に写して返し授け給えりーーと教え方さまの声がした時、なぜか電流に打たれたかのような強い衝撃を受けたのである。
罪人として石もて追われ、これから十字架にかけられようとしているイエズスさまに対し、それまでひとりの群衆にすぎなかったヴェロニカが、勇気をもって一枚の布を「どうか、お顔をお拭いください」と差し出したのである。
あとでどんなとがめが待っているかもしれないなどと考えることもせず、ただただ、目の前のイエズスさまのお姿を見るにしのびなく、何か自分に出来ることはと思い、一枚の布を手に握りしめて駆け寄ったのである。
イエズスさまはどんなに嬉しかったことでしょうと想像する。
ーーわれら弱きものなれども、ヴェロニカにならい、世のあざけりを顧みず、専ら主を崇め奉ることを得んことをひたすら願い奉る。アーメンーー中学生の私はその時、心の底からこの祈りの意味がわかったような気がして大きな声で祈ったことを覚えている。何かあると、ヴェロニカを思い出し、自分を励ましている。