彼女はその味が忘れられなくなりました。そして、一大決心をしました。羊飼いになろう。自分の手でミルクを絞り、ソフトクリームを作ろう。そんな夢を持ったのでした。
大沼の自宅に帰り、両親に羊を飼いたいと話しました。すると両親は羊を飼うのはねえと、渋い顔です。彼女は泣く泣くあきらめ、東京へ行き看護師として働き始めました。
歳月が過ぎました。久しぶりに帰省したRさんは、両親と我が家の羊を見にやってきました。未経験でありながら、楽しそうに羊飼いをしている私を見ているうち、彼女はあきらめていた夢を思い出しました。羊飼いになり、羊のミルクで世界一おいしいソフトクリームを作りたいという夢を。
彼女は東京を引き払い、大沼へ帰ってきました。そして、両親に宣言しました。
「私、今度こそ羊飼いになる」
両親は不承不承、協力してくれることになりました。
昨年の夏、彼女は美深の羊牧場へ、研修のために旅立ちました。昼間は羊牧場で働き、夜は看護師として働きながら、研修に励んでいます。
先日、彼女から手紙が届きました。羊のミルクを絞っている写真が入っていました。
〈私、ミルクが乳房にたまってくるのがわかるようになりました。春はベビーラッシュです。これから私を羊飼いのRと呼んでね!〉
羊飼いへの道を歩む彼女に乾杯です。