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勇気を持って歩む

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

北海道大沼で仲良くなったRさんの話をします。

彼女は、42歳の看護師です。10年ほど前、北海道の北部、美深にある全国的にも珍しい、いやもしかすると世界的にも珍しいソフトクリームを食べました。それは羊のミルクから作ったものでした。一口食べただけで、そのおいしさに驚き、魅せられてしまいました。

〈まあっ、なんと濃厚でクリーミーなの!こんなおいしいものがあるなんて。〉

彼女はその味が忘れられなくなりました。そして、一大決心をしました。羊飼いになろう。自分の手でミルクを絞り、ソフトクリームを作ろう。そんな夢を持ったのでした。

大沼の自宅に帰り、両親に羊を飼いたいと話しました。すると両親は羊を飼うのはねえと、渋い顔です。彼女は泣く泣くあきらめ、東京へ行き看護師として働き始めました。

歳月が過ぎました。久しぶりに帰省したRさんは、両親と我が家の羊を見にやってきました。未経験でありながら、楽しそうに羊飼いをしている私を見ているうち、彼女はあきらめていた夢を思い出しました。羊飼いになり、羊のミルクで世界一おいしいソフトクリームを作りたいという夢を。

彼女は東京を引き払い、大沼へ帰ってきました。そして、両親に宣言しました。

「私、今度こそ羊飼いになる」

両親は不承不承、協力してくれることになりました。

昨年の夏、彼女は美深の羊牧場へ、研修のために旅立ちました。昼間は羊牧場で働き、夜は看護師として働きながら、研修に励んでいます。

先日、彼女から手紙が届きました。羊のミルクを絞っている写真が入っていました。

〈私、ミルクが乳房にたまってくるのがわかるようになりました。春はベビーラッシュです。これから私を羊飼いのRと呼んでね!〉

羊飼いへの道を歩む彼女に乾杯です。