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なつかしい

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

人は生まれてあの世へ旅立つまでに、一体どれくらいの人と関わりをもって生きるのであろうか。まず父母、産婆さん、神父さま、教え方さま、血縁の者たち、隣近所の人たち、学校の先生、学校の友だち、働くようになると職場の人たち、結婚すれば、婚家のゆかりの人たち、病気をすれば、医師や看護師たち・・と、思い出していくときりがない。

私の場合、仕事柄、出版社の人たち、取材先の人たち、講演先の人たち、文学講座の受講生、全国の読者の人たち・・。と、また、次から次に思い出されてきりがない。

私は時々、心の中で思い出すだけではなく、その人たちの名前を列記してみることがある。

たいてい心身が弱っている時である。

先日も舌の先が赤くなって痛み、ものが食べられない、しゃべれないという苦しみを味わった。昨年、大腸ガンになったこともあり、舌ガンを疑い、数日眠れなかった。

そんな日、気分をまぎらわすために、なつかしい人たちを列記してみたのである。

すると、不思議、不思議。

すらすらと100人以上の人の名前が書けると、何だか、心がにぎやかになって来たのだ。

「ああ、わたしは、これまでこれらの人々の愛情や励ましを受けて生きてきたのだ」と思うと、ありがたい、勿体ないという気持ちで涙がにじみ出てきた。

悲しみの涙ではなく、嬉し涙である。

そういうことを数日繰り返しているうちに、いつしか、舌の痛みが気にならなくなり、舌ガンではなく舌炎であることがわかり安心した。人は人によっていやされるということがつくづくわかった。

その上、私には幼少の頃から今日まで聖家族に祈るのが日課である。聖家族は私にとって、かけがえのないなつかしき人々である。