ほんの数十秒間の出来事でしたが、女性の毅然とした明るい表情が心に残り、なぜか女性と黒い犬の後ろ姿が見たくなった私は立ち上がり、店を出て、その姿を捜しました。すでに遠のいている背中を見送った後、再び店に入って腰かけ、ひと時頬杖をついて(あの女性は目が不自由ながらも傍らの犬と共に、何かを感じ取りながら、日々を生きているのでは...)と、想いを馳せました。同時に(はたして私には、本当に大事なものが見えているのだろうか?)と、心の中で問いかけました。
会計の際、「以前の店の頃によく来たもので」と言うと、男性の店員がにっこりと「今後は当店をお願いします」と返す言葉に頷いてから、私は店を出ました。
目の不自由な女性と黒い犬の後ろ姿を脳裏に浮かべながら歩いていると一瞬、そよ風が頬を撫でていきました----あの黒い犬のように、いつも傍らにいる(同伴者イエス)の存在を心の何処かで感じ...不思議な歓びに満たされながら、待ち合わせの場所へ続く道を、私は歩いていきました。