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クリスマスとは

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

夫の若いころの話をします。

夫は大学に入学早々、急性の十二指腸潰瘍にかかりました。手術は成功したのですが、術後の経過が悪く故郷の新潟へ帰り療養することになりました。

新潟でも、たびたび腸閉塞を起こし、激しい腹痛に悩まされました。何度も救急車で病院へ運ばれ、治療を受けねばなりませんでした。寝ていた夫がふと目を覚ますと、いつも母は心配そうに彼の顔を覗き込んでいました。"母さんは、いつ寝るのだろう"、夫は母の健康が心配になったそうです。

あまりの腹痛で眠ることもできない夜、母は祈り続けました。

「息子の痛みや苦しみを私にください。私が全部引き受けますから」この母の祈りが通じたのでしょう。夫の病気は徐々に回復に向かいました。

秋になったある朝、夫は目覚めて叫びました。

「母さん。お腹の痛みが止まったよ。嬉しいよ。」 母は、涙を流しながら喜んでくれたそうです。

2週間後、それまで流動食しか食べられなかった夫は、母が炊いてくれたご飯を食べることができました。

「なんておいしいんだろう。嬉しいなあ。もう、いつ死んでもいい」「そんな、バカなことを言って」母は、夫が病気になって以来初めて笑いました。

クリスマスイブに母は小さなクリスマスケーキを作ってくれました。夫は、一口食べて言いました。

「おいしい!これまで食べたケーキの中で最高だ!」

クリスマスを境に夫は、徐々に体力を回復して翌春大学へ復学することができました。

クリスマスの心とは何か、それは愛だと思います。愛とは相手を思いやり、その痛みや苦しみだけでなく、喜びも分かち合うことです。生涯最高のクリスマスケーキだと褒められたとき、母の喜びようはありませんでした。