ユダヤ人のフランクルは、ドイツのナチスによって妻と別々に強制収容所に入れられていた或る日、突然、はっきりと妻の面影が目の前に浮かびました。そして、戦後に解放された時、妻の面影が目の前に浮かんだ日に妻が亡くなったことを知りました。そして彼は「愛は死よりも強い」と感じたと書いています。
このフランクルの体験を読んだ時、私の脳裏に鮮やかに浮かんできたのは、空襲の爆撃が一際激しくなった時、「一緒に死のうね」と囁きながら、幼かった姉二人と私の上に、覆い被さるように地面に伏した母の姿でした。物静かな母の思いがけない強さと温もりに包まれて、私は、死の恐怖は何も感じませんでした。
あの時の、母の愛に包まれた幸せな瞬間を忘れることが出来ません。そして、聖書の言葉を知っている筈のフランクルが、敢えて「愛は死よりも強い」と書いた心が、分かるような気がするのです。そして、永遠の愛を説くキリスト教の門を、何の躊躇いもなく潜り、神父の人生を送っている私。その私が、人生を変えることができたのは、「一緒に死のうね」と囁いたあの母の言葉だと思っています。