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天の国の鑑

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

私の母はまるで実際に天国やれん獄に行ってきたかのようにしゃべるので、私たち5人のきょうだいは、自分たちも実際に見てきたかのように思いつつ成長した。

「天国にはさ、1年中きれいか色とりどりの花が咲いとって、匂いがさ、よかとっちよ。それも、この世にあるどんなよか匂いもかなわんほどよか匂いっちよ。音楽もさ、聞こえとっとっち。この世で聴くどげんなよか音楽も比べものにならんぐらいよか音楽っちいうとよ。人間は死んでもさ、この世でよか行いばしとけば、天国へ行けるとよ。そうじゃねぇ、天国に行って一番よかとはさ、神さまイエズス、マリア、ヨゼフさまをはじめ、聖人方ば直接見らるっとよ。そげん幸福なことがでくっとよ。じゃけん、この世にいる間、罪ば犯さんごとせんばよ」と夢見るような顔をしていうのだった。

そのあと少し真顔になり、「じゃばってん、天国へ行くとはむずかしか。ラクダが針の穴ば通るぐらいむずかしかっちいうけん、とてもじゃなか、すぐには天国には行ききらん。かあちゃんはまずれん獄で暮らすっち思う。れん獄も火が燃えとるとよ。熱かとっちよ。じゃけん、この世におる人どんが、れん獄のれいこんのために御ミサばたててあげんばよ。御ミサがたってる間、冷たかしずくが落ちて来て熱さからまぬがれるけんね。じゃけん、かあちゃんがもし死んだら、御ミサばまめにたててくれろよ」と私たちに頼むのだった。

「とにかくさ、天国へ行くには自分の心の鑑ばきれいに磨くことたいね。曇らさんごとすることたいね。子どもの頃は、心に曇りがなかけん、天国がそのまま映るとよ」

私も68歳になり、年々、心の鑑が曇って行っているのではないかと思う。とにかく、一にも二にも心の鑑を磨く努力を続けたい。