病院からT子さんは手と足にギブス、腰にコルセットを付けて戻ってきました。立って歩けず、匍匐前進しかできません。見舞いに訪れた友人Sさんは、すぐに役場から車いすを借りてきてくれました。更に、掃除などをしてもらう手続きをしてくれました。
T子さんの息子が大阪から駆けつけました。大けがをした母親を見て、言いました。
「一人暮らしは、無理だよ。僕と一緒に暮らそうよ」
T子さんは断りました。
「みんなが助けてくれるから、大丈夫」
病院の診察日に私は彼女を病院へ連れて行きました。次の診察日にはSさんが連れて行きました。隣のK子さんは、T子さんのところへ食事を運んであげました。お昼を一緒にすることもありました。
2か月も経つと、T子さんは驚異的に回復し、自分で車を運転することができるようになりました。彼女は一人ぼっちでないことに気が付き、すっかり明るさを取り戻しました。
雪が降るたび、近所のS太郎さんはT子さんの家へ雪かきに行きます。
「通院から買い物、食事の世話から雪かき、掃除まで。ここは寒さが厳しいけれど、心の温かい人がたくさんいる。まるで天国のようだわ」
T子さんは涙を浮かべるのでした。