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無限の可能性

服部 剛

今日の心の糧イメージ

約20年前、作家の遠藤周作先生を長年支えた妻・順子夫人の講演会がカトリック大船教会で行われました。青年だった私は客席で生前出逢えなかった遠藤先生に想いを馳せながら、夫人の話を聴いていました。講演後、夫人の著作を求めサインをいただく列に並び、「人の心に仄かな灯をともす詩人になりたいです」という夢を伝えると、夫人は微笑みながら、「主人は詩人を最も尊敬していました」と力強く応じてくれました。その瞬間、私の心の奥底には(遠藤先生のように大事な何かを読者と分け合う者になるーーー)という決意が広がりました。

当時、学生生活を終えてまもない私は、アルバイトをしながら自分が本当に生きる道を探していました。家の目の前にあるモンタナ聖母訪問会の聖堂にいたシスターにその想いを伝えると、週に一回〈私は誰か〉というテーマで個人的に講義をしてくれることになりました。

 

「人間の魂の深い所には(実在)というものがあり、その賜物を生きることは、神様が一人ひとりに望んでいることなのです」。そう静かに語るシスターは、詩人になる志を家族に告げても賛同されなかった私に遠藤文学の講座の案内を手渡しました。その後、シスターとの対話を重ねるうちに、私の往く道はおぼろげながらも見えてきたのです。

昨年末、私は想い出のカトリック大船教会で、ダウン症を持つ息子・周について『我が家に天使がやってきた』という講演を行いました。妻と息子に贈る『夢の木』という詩を朗読した後、深く頭を下げ、会場の皆様の温かい拍手に包まれた時、私の人生の舞台が幕を開けたと確信しました。(この一度きりの人生は、天が書き記してゆく物語なのだ・・・)と。