今から20年程前日本で大きな個展が開催され、一時帰国なさった先生にお会いしました。80代後半になっていらしたはずでしたが、背筋の伸びた颯爽とした御姿で、元気に色々な事を話して下さいました。その中で私の心に特に響いたのが「人生は唯の一度。まわり道をしてもこの事だけはと決めたことに向かって、精進を続けることだ」とおっしゃった一言でした。そして御自分が体験なさったまわり道だったと思える例をいくつか上げて、「人生もここ迄くると、その時まわり道と思った時間から、いかに多くのことを学んだか、予期しない人々との良い出会いがあったかなど、思い出になる事柄が沢山あったことに、ようやく気が付くのだよ。最後は人生は全ての事に感謝出来るものだね。」としみじみした口調でお話になりました。
数年後ニューヨークのアトリエを閉め御家族全員で帰国なさり、東京に住居を移されたのですが、先生はすぐ天国へ旅発っていかれました。91歳になられ、最後迄キャンパスに向かっていらしたそうです。
先年、先生の生誕百年記念展が横須賀美術館で、大々的に開催されました。私は生徒達を案内して、度々会場を訪れました。初期の作品から大きく画風が変化し、次第にシンプルに大胆に色彩が明るく強くなっていく作品を前にして、きっとまわり道の効果に違いないと合点しました。
まわり道をしても必ず一筋の目標を見失なわなければ、全てが経験として活かされるのだと思います。