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人生は学び

岡野 絵里子

今日の心の糧イメージ

小学生の頃、私は読書が好きで、学校の図書室の気に入った本はあらかた読んでしまい、先生用の資料まで読む始末だった。図書室の奥には先生のための書架があって、指導書等が数多く並んでいたのである。生徒が仮病を使って保健室に来た場合の対処の仕方などが書かれた本もあって、渦中にある小学生には大変面白かった。そしてページを繰りながら、先生も参考書を読んで勉強するのだ、と知って、不思議な気持を味わった。学ぶのは自分たち子どもだけだと信じ込んでいて、先生たちが教えるために、遥かに多く、遥かに深く学んで努力しているということなど想像もつかなかったのである。

生きる喜びの一つは学ぶことではないか、と私は思っている。昨日までは出来なかったことが出来た喜び。知らなかったことを知る喜び。たとえささやかなスキル、ささやかな知識に見えても、何かを新しく身につけていけるのは嬉しい。幸福とは、そんな風に世界にひらかれていく日々のことだと思うのである。

海外旅行先で見たテレビの話だが、そば作りを学び、第二の人生を出発した女性が、はにかみながら「そば作りは私の生きがいです。老後の楽しみにしようと思っております・・」と話した後に、「そば作りによって、彼女は視野を広げたのである」と説明字幕が流れた。そこで使われた単語はホライズン、地平線という言葉だった。まさに彼女は自分の地平線を大きく広げ、新しい人生に乗り出して行ったのである。

学ぶことは、その人の可能性を広げる。その人自身をひらき、地平線を遥か彼方まで伸ばす。世界にはその広さだけ、学ぶことも多くあり、喜びもまた限りなく生まれるのである。