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人生は学び

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

昨年の秋のことです。

窓から羊小屋を見ていた私は、春に生まれた仔羊、次郎のただならぬ様子に気が付きました。

「大変。次郎が口から泡を出している」

羊小屋に行ってみると、次郎のお腹は左側に大きくふくらんでいます。口からはぶくぶくと泡が大量に出ていて苦しそうです。

羊事典によれば、どうやら鼓張症のようです。鼓張症とは、羊のお腹の中でガスが異常に発生し、死に至ることもある危険な病気なのです。

私は、すぐに獣医のK先生に電話を掛けました。K先生は、お腹のふくらみは、背中を超えていますかと尋ねます。私は超えていますと答えました。

「鼓張症だなあ。今、急患がいるので、すぐにはいけません。」

私は気が気ではありません。ほっといたら死んでしまいます。

「先生、どんな処置をしたらいいんですか。」

「顔を上に向けてお腹をマッサージしてください。うまくいかなければ、私が行ったとき、お腹に針を刺して空気を抜きましょう」

次郎の体重は40㎏くらいあります。具合が悪くても捕まえるのは大変です。逃げ回る次郎を捕まえて、毛刈りの時のように頭を上にして座らせました。私はふくれている次郎のお腹を必死にマッサージしました。やがて、ゲホッという音がしてげっぷが出ました。

「頑張れ次郎。死ぬなよ」

しばらくすると、ベー。ベー。次郎が鳴きはじめました。鳴く度にお腹の空気が抜けていくのがわかりました。どうやら次郎は、危機を脱したようです。

重篤な羊鼓張症には、頭を上に向けて、必死にお腹をマッサージをすればよいのです。

我が家の羊は、これからも鼓張症になることがあるでしょう。でも大丈夫。どの羊が鼓張症になっても治してあげられる。新米羊飼いの私はちょっぴり自信をつけたのでした。