本当のことを・・・

ハヤット 神父

　ある家庭での出来事です。男の子が走って帰ってきて、母親に向かって叫びました。「僕、これからバスに乗る時、切符を買うよ」母親は、子供がなぜ興奮しているのかわかりません。落ち着かせ、聞いてみますと、友だちの家で見たテレビ番組が原因でした。

　そのテレビの話はこうでした。

　ーある母親が子供を連れて動物園へ行きました。切符売場には"６歳以上のお子様には切符をお求めください"と、はっきり書いてありましたが、母親は自分の切符だけを買いました。そして、２人が入り口を２、３歩中へ入った時、係員に呼び止められます。

　「失礼ですが、お子様はおいくつですか？」母親が答えようとした時、少年が先に言ってしまいます。「僕、６つだよ」母親は嫌な顔をして引き返すと子供の切符を買い、そして子供を叱りつけました。

　「どうして黙っていないの！得するところだったのに！」。

　その子の顔はたちまち曇りました。園内のキリンや象、その他、世界中から集められた動物を見てまわっていても、その顔は晴れませんでした。見たものはみんな珍しく、お母さんが作ってくれたお弁当もおいしかったけれども、彼の心はひとつのことにとらわれていたのです。何故、母親に叱られたのかわからず、自分の心に尋ねているふうでした。「本当のことを言うのがどうしていけないのだろう？」とーー

　この番組を見た男の子は、何かを感じとり、それを母親に告げようと急いで帰ってきたのでした。幸い彼の母はテレビの中の母親とは違いました。息子の切符を買うことで出費が増えても、今までが間違っていたのだと認めました。

　そして、何よりも彼が"本当のことを言う"ことを学んだのを、心から喜んだのでした。