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追憶

シスター 菊地 多嘉子

今日の心の糧イメージ

 記憶に蘇る思い出の糸をたぐり寄せると、幼い頃から現在にいたるまでの数々が、まるで一枚の織物のように見えてきます。忘れえぬ今は亡きカナダ人のルイーズが私に残した絶筆にあるように。

 人生は、神の御手によって織られていく美しい織物ではないでしょうか。幸福に溢れる日は金の糸、悲しみに閉ざされた日は銀、うれしいときには青、寂しいときには灰いろ、苦悩に打ひしがれたときには紫、平和が訪れたときには純白の糸・・・。これから先、何が起ころうとも、私たちの日々がいつも『永遠の命』を目指しているなら、すべてに意味があり、すべては幸福の泉となります。」

 30年もの間、病む人を看取ってきたルイーズの、聡明さと優しさとをたたえた微笑み、信頼と希望をもたらす言葉は、病棟を照らす太陽のようでした。日本の歴史・地理・文化・宗教にいたるまで通じていて、私が答えに窮するような質問をするほど、日本に憧れ訪れる日を待ち望んでいたルイーズ。その夢が、私の帰国後数年もたたぬうちに消えてしまったのです。

 「愛する妻ルイーズは、最期まで、あなたをなつかしく思い出していました。」訃報に同封された絶筆は、ルイーズの生涯の証のように思われました。そのとき、私は復活されたキリストの約束を思い出したのです。

 「私は世の終わりまで、いつもあなたたちと共にいる」(マタイ28・20)

 時間と空間を超えた、つねに「今」である復活されたキリストは私たちを離れず、新たな第一歩へと導き、永遠の命の希望で心を満たしてくださいます。亡き人との出会いの追憶は、いつの日か、神様のもとでの終わりのない再会の喜びを、この世で味わうことではないでしょうか。