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心輝かせて

新井 紀子

今日の心の糧イメージ

 北海道へ移住して五度目の春を迎えました。移住して最初にしたことは、動物小屋を建てて羊を飼うことでした。頭の黒いサフォーク種の仔羊が二頭来たときには、嬉しくて一日に何度も小屋を見に行きました。

 私は、羊を飼って暮らすというだけで満足でした。羊が黙々と牧草を食む姿を眺めていると、心が癒されるのです。しかし、北海道に暮らす人々にとって羊は、あくまでも家畜です。

 「何のために飼っているの。お肉にして食べるの。それとも毛糸にするの」と、しばしば聞かれました。

 羊は桜の咲くころに毛刈りをします。我が家でも刈り取った羊毛がたまってきました。4年間で大きな紙袋八個にもなりました。どう使おうかしら。悩んでいるうちに、歳月が経ってしまいました。

 あるとき、私は一念発起して羊毛を紡ぐことにしました。糞尿や藁にまみれた羊毛を洗い、干して固まった羊毛を細かくほぐしました。さらに針金がたくさんついたカードという器械にかけます。汚れていた羊毛が、ふわふわの布団の綿のようになります。それを紡いで毛糸にします。

 生れて初めての毛糸紡ぎは、想像以上に大変でした。細くなったり太くなったり、撚りがかかりすぎたり、切れたりしました。毛糸が完成すると、ようやく編むことになるのです。私は自分と夫のベストを編み上げました。3か月かかりました。

 「私と羊からのプレゼントよ」夫に手渡すと、早速着てくれました。「世界でただ一つのベストだね。ありがとう。軽いなあ。しかも、暖かいね。」

 ふわふわにした羊毛は、フェルトにして、お財布やメガネ入れにすることができます。もっと頑張れば、帽子にすることもできるのだそうです。さあ、次は何を作ろうかしら。私の胸は高鳴ります。