「何のために飼っているの。お肉にして食べるの。それとも毛糸にするの」と、しばしば聞かれました。
羊は桜の咲くころに毛刈りをします。我が家でも刈り取った羊毛がたまってきました。4年間で大きな紙袋八個にもなりました。どう使おうかしら。悩んでいるうちに、歳月が経ってしまいました。
あるとき、私は一念発起して羊毛を紡ぐことにしました。糞尿や藁にまみれた羊毛を洗い、干して固まった羊毛を細かくほぐしました。さらに針金がたくさんついたカードという器械にかけます。汚れていた羊毛が、ふわふわの布団の綿のようになります。それを紡いで毛糸にします。
生れて初めての毛糸紡ぎは、想像以上に大変でした。細くなったり太くなったり、撚りがかかりすぎたり、切れたりしました。毛糸が完成すると、ようやく編むことになるのです。私は自分と夫のベストを編み上げました。3か月かかりました。
「私と羊からのプレゼントよ」夫に手渡すと、早速着てくれました。「世界でただ一つのベストだね。ありがとう。軽いなあ。しかも、暖かいね。」
ふわふわにした羊毛は、フェルトにして、お財布やメガネ入れにすることができます。もっと頑張れば、帽子にすることもできるのだそうです。さあ、次は何を作ろうかしら。私の胸は高鳴ります。