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心の痛み

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

 心がきりきり痛むほどの悩みや苦しみをかかえている人から見れば、私の心の痛みなどささやかだけれど、それでも何かの参考にはなりはしないかと思うので紹介したい。

 今井の母が倒れ、半身不ずいとなり、五年半の入院生活ののち召された。その五年半、私はほとんど毎日のように母を見舞った。そのために、泊まりがけの取材や講演依頼を断ることもしばしばあった。

 体調がすぐれない時、今日は行くのをやめようかなと思うこともあったが、それでも自分を励まして病院へ行った。

 すると母は満面の笑みを浮かべて私を迎えた。母の食事介助や、おしゃべりの相手をしていると、体調が悪かったことなどすっかり忘れるのは不思議だった。帰り道の足どりはとても軽くなっていたp>

 「どうして、それほどまでして行くの?」と友人に聞かれたことがある。その時、私は「行かないと心が痛くなるから」と答えた。実際、天候が悪いからとか、熱っぽいからといって行かなかったことが数回あった。そんな夜、母が待ってただろうな、病室の入口の方ばかり見て、やがて夕食の時間になって、がっかりしただろうなと想像すると、心が痛くなって眠れなかった。

 体の楽を選ぶか、心の楽を選ぶかと誰かに聞かれたら、心の楽とすぐ答えるだろう。やがて友人の姑も入院した。彼女は1日おきに姑の見舞いに行くと決めて、病院に通った。

 「美沙ちゃんの言ってたことが、今頃になってよくわかったわ。こないだ風邪引いて、一週間ほど病院へ行けなかったんよ。うつしたらあかんからね。その間、本当に心が痛んだんよ。やっと風邪が治って見舞った帰り、どんなにか心が軽くなってスキップしたいほどやったんよ」と友人は笑顔で報告した。その日以来、毎日通っているそうである。