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それでも感謝

小林 陽子

今日の心の糧イメージ

 〈かすかな冬の匂いがしてきました。ごぶさたしていますがお元気ですか〉

 それは金沢市に住む詩人のMさんからの久しぶりの手紙でした。

 彼女はほんとうに魂の歌をうたえる数少ない詩人だと思っています。

 〈生きることは ほんとうに大変だなと思います。人生になにが起きるかわからず、とつぜん色んな出来事が降ってきます。〉

 出会いがあったのは13年前ですが、そのあいだに数えるほどしか逢っていません。めったに会えず、お互いに詩集を交換したり、感想を伝えあったりするだけの、浅いおつきあいなのですが、青いインクで書きつけられた彼女の手紙は、なぜか心の深みに届いて祈りにひき込まれるようなのです。

 書かれているのは特別のことではなく、暮らしのなかのささやかな思いであったり報告であったり。ほんのひとこと「神さま」が登場します。

 〈詩は ほんとうに難しいです、私もなかなかいい詩が書けず苦しんでいます。どうぞ お身体を大切になさっていい作品を書いて下さい。お祈りしています〉

 そう、こんな言葉がつけ加えられていました。

 〈自分に嘘をつかず、他人を傷つけずに生きていくことは本当に難しいことだなと思うこの頃です。祈ることしかできません・・。神さまが導いてくださるように。  M〉

 たったこれだけの短い手紙です。なのに涙がこぼれました。ひたむきに、真面目に生きている人の哀しみが==それが実際に何なのかはわからなくとも、じいんと伝わってきて。

 静かに耐えているひとの息づかいが文字のあい間から聞こえてきたからでしょう。彼女の手紙はいつも短いけれど、繊細な傷つきやすい心のありかをみせてくれます。

 手紙って不思議ですね。  ありがとう、Mさん。