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それでも感謝

シスター 菊地 多嘉子

今日の心の糧イメージ

 旧約聖書の中に、「ヨブ記」と題する物語があります。「無垢な正しい人で、神を畏れ、悪を避けて生きていた」ヨブは、裕福で家族にも恵まれていました。ところが、ある日突然、思いもかけない試練に見舞われます。賊に襲われ、家畜を略奪された上、天から降ってきた火で羊と羊飼いが焼死し、大風が家をなぎ倒し、息子も娘も命を奪われたのです。そのとき、無一物になったヨブは、地にひれ伏して祈りました。

 「私は裸で母の胎内を出た。裸でそこに帰ろう。主は与え、主は奪う。主のみ名はほめたたえられよ」と。ヨブは、さらに全身を皮膚病に侵され、妻からも見放されて、「神をのろい死ねばよい」と罵られます。それでも、ヨブは答えるのです。「おまえまで愚かなことを言うのか。私たちは神から幸福を頂いたのだから、不幸をも頂こうではないか」と。ヨブが信仰によってこの境地に達するまでには、さまざまな苦しみを体験しなければなりませんでした。

 ヨブの物語は、自分の過ちが招いたのではない試練を、神様の手から感謝して頂くとき、かならず幸せへと導かれることを示しています。東北の大震災で、家族も家も職も奪われた方の言葉をテレビで聞きました。「どうして、この災いが!と何度繰り返しても、元に戻るものは何一つありません。今は過去を眺めて嘆くのではなく、前に進むだけです。希望を失わずに。」瓦礫の山を前にして、こう語った女性の顔は、すべてを失った苦しみを経て、何ものにも換えがたい神様への信頼と希望で輝いているように見えました。

 何事がおこっても決して諦めない、「ありがとう」と、神様に、人々に、感謝し続ける信仰に、神様は必ず報いてくださるのです。