母の後ろ姿

崔 友本枝

　私たちは、日々、様々な出来事に直面し、緊張したり葛藤したりして心を使っています。ですから夜になると、日中の事が心を占めて眠れないことがあるものです。そんな時、私はすぐにロザリオを手に巻きつけて横になったまま祈ります。

　ロザリオは、輪になったネックレスのような形をしたもので、お祈りを数える道具です。聖母マリア様に向かって「神様にこの願いを取り次いでください」と頼むのです。祈り始めると、たいていロザリオを一周する前に眠りにおちます。「マリアお母さん」と甘えながら祈ると、頭をなぜてもらったように安らかな気持ちになれるのです。日中も、難しいことに遭遇するとすぐにマリアお母さんに語りかけます。

　先日もそうでした。税金の還付のため、確定申告に行ったときのことです。税務署には何百人もの人が詰めかけ、複数の税理士が書類整理を手伝っています。毎年スムーズにいきますが、今年は困ったことが起きました。いつもとは違う書類を渡され、この書類でなければいけないと言われたのです。項目が記入の内容にあわないので、今まで通りの書類にしたいと私が言うと、強く反論されました。私はこれ以上言わない方がいいと感じてただ祈りました。「マリアお母さん、優しい人を私につけてください」と。すると、私のすぐ隣の若い税理士の手が空き、説明を聞いてあっさりと書類をかえてくれたのです。先ほどまでの人は、後ろ向きになって他の人を手伝い、二度とこちらを振り向きませんでした。本当にほっとしました。

　　

　そっと手助けしてくれたお母さんの後ろ姿を見たような気がしました。天のお父さんは、地上のお母さんの他に、もう一人強力な味方、天上のママもつけてくださったのです。