▲をクリックすると音声で聞こえます。

感謝の手紙

ハヤット 神父

今日の心の糧イメージ

 有名な作家であり講演者でもある人が、「自分が今日あるのは学生時代のある先生のおかげだ」と、ある夜食事を共にした人たちに話しました。この先生は、彼の文学への興味を呼び覚ましてくれた最初の人でした。彼は更に、自分が現在作家として成功したのも、「才能を伸ばすように」との先生の励ましから出発したものだ、と語りました。

 彼が口をきわめて先生をほめ、話し終わった時、同席者の一人が、その先生に感謝の意を表したことがあるか、と尋ねました。その時初めて、彼は一度も感謝の言葉を述べていなかったことに気付いて愕然とし、その夜早速、感謝の手紙を認めました。

 その先生に教えを受けたのは何年も前のことでしたので、あちこち手を尽くして調べ、やっと現住所がわかりました。

 手紙を出してから2、3日すると返事が来ました。それはとても暖かい言葉で埋められていて、彼の手紙を読んで「思わず泣いた」と書いてありました。彼女は50年間も学校で教えていましたが、生徒のためにしたことについて、感謝の手紙を貰ったのは、初めてだというのです。

 この返事は作家に非常な感銘を与えて、彼がこれまでに世話になりながら、感謝したことのない多くの人々のことを考えさせるようになりました。講演会の手はずを整えてくれた人、ものを書く資料を提供してくれた友人、彼の著書を批評してくれた人などに対して、彼は感謝の手紙を出すようになったのです。

 手紙を書くたびに、彼は他人の善意についての認識を新たにしました。そして、自分の友だちがだんだん増えていることにも気付きました。みんな以前よりもっと熱心に彼を助けてくれるようでした。彼のゆき届いた感謝の便りを、みんな嬉しく思ったからにほかなりません。