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あいさつ

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

 私は人と会いあいさつをする時、立ち止まるように心がけている。

 ほんの何秒間か立ち止まり、にこにことあいさつしている。

 ほとんどの人がそんな私に対し、歩調をゆるめず、歩きながら忙しそうにあいさつして通り過ぎる。中にはにこりともせずに、ただあいさつだけする人もいる。ほんの少し微笑むだけで相手の心も和むのにと、私は残念に思う。おとぎ話のように何度も書いたが、私は幼い日、母から「にこにこするとが子供の仕事」と教えられて育ったので、人とあいさつする時、にこにことせずにはいられないのである。にこにこは子供だけの仕事ではなく、大人の仕事でもあると私は思っている。あいさつをするという事は相手の心をあたためると共に、そのまわりを歩いている人をもあたためると私は信じている。私の知らない人同士がにこにことあいさつしているのを見るのはとても楽しい。

 先日、ある人が「Aさんはわたしを見ても知らん顔やから、わたしもあいさつせんと無視してるんやわ。Aさん、今井さんにはあいさつする?」と私にきいてきた。

 「するよ。わたしは相手が気がついてないかもわからへんからって思って、自分の方からあいさつするよ。そしたら、次からはAさんの方からあいさつしたわ」と私は答えた。

 すると後日、「ほんまやわ。わたしの方からあいさつしたら、Aさんの方からあいさつしてくれるようになったわ」と報告があった。

 私はそのふたりのにこやかなあいさつの場面を想像して嬉しくなった。人間同士が何かの縁であいさつをかわしている姿を神さまが天からごらんになったら、どんなに嬉しい気持ちになられるだろうか。そう思うとあいさつせずにはいられない。