壁を乗り越える

末盛 千枝子

　生きていると、どうしてこんなにというほど、いろんな難しい局面に出会うような気がします。もしかしたら、それは、他の人にはそれほど大変なことではないのに、自分には、一々大変に思えてしまうのかもしれません。

　でも、よく考えてみると、私たちはそれぞれに自分の至らなさとともに生きていて、そのぶん本当にたくさんの素晴らしい言葉も与えられているのだと思います。そして、乗り越えなければならない壁にぶつかったようなとき、私が思うのは、だいたいにおいて、もし神様が、私がこのことをすることをお望みだったら、きっと立ちはだかったように見える高い壁は乗り越えられるだろう、と思うのです。そして、だいたいにおいて、その壁のように見えていたものは、いつの間にかすうっと消えているような気がします。あるいはもう、それは壁ではなくなっていると言った方が良いのかもしれません。でも、とにかく、そんなことが多いような気がします。

　そういいながらも、確かに、その壁のように見えていたものを乗り越える力、あるいは知恵が与えられるように思います。時には、本当に劇的なほど思いがけない助けが与えられたようにさえ思うことがあります。とつぜん、考えてもいなかったことが起こり、それは、その壁を乗り越えるのに、最高の、考えられないほどの良い方法だと思うようなことがありはしませんか。そういうとき、本当に、神様は、いろいろと考えていてくださるのだと、今さらのように思います。

　私がそのように言うのを聞いていた夫は「神様って楽しいだろうなあ」と言ったのです。私は呆れて、驚いて、口を開けて、哲学者である夫の顔を見ました。彼はちょっと嬉しそうでした。