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意気込み

今井 美沙子

今日の心の糧イメージ

 私の母は我流で和裁をマスターし、私たち子どもが物心ついた時には、よそ様の着物を縫って家計の足しにしていた。

 母は、いのしし年生まれで、そのことをいい事として受けとめ、「わたしはさ、こうと思ったらまっすぐ進むとたいね。人間は心意気が大事たいね」と常々いっていた。

 しかし、母は人間は心意気といいながらも、その上にいつも神さまがおられて、その心意気を助けてくれると信じていた。

 とても弁償ができないような高価な反物を持ちこまれ、それを、はさみで裁つ時、母は十字を切って、「神さま、失敗ばせんでと、わたしん手に手ばそえてください」とお願いしていた。

 すると、母の手に神さまの手がそえられて、無事に反物を裁つことができるのだった。

 「おかげでさ、今まで数えきれんぐらいの着物ば縫うたばってん、一度の失敗もなかったとよ」と感謝をこめていっていた。

 私が作家としてスタートした時に、母は、自分の体験をふまえていった。

 「ものば書く意気込みは大事じゃろうばってん、それだけでは、ものは書きやえんち、母ちゃんは思うとよ。やっぱりさ、机の前に座って、原稿用紙に向かったら、まずさ、神さまにお祈りばして、わたしん手に神さまの手ばそえてくださいっちお願いばしながら書かんばよ」と。私は今年64歳になった。

 年を重ねると、今まで気付かなかったものに気付き、見えなかったものがだんだんと見えるようになって、ますます、書いて残したいと思うようになった。意気ごみというものは、若い時だけのものかと思っていたが、そうではないことがわかった。

 私はこれからも祈りながらペンを持って書き続けたいと思っている。母が針を持ち続けたように・・・。