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心新たに

末盛 千枝子

今日の心の糧イメージ

 半年前に夫が84歳で亡くなりました。お互いにいろいろと難しいことを抱えてきた人生でしたが、最後の時間を一緒に大切に過ごすことが出来たことは、本当に幸せなことでした。人はみんないつか死ぬのだと思いながらも、なんとか、それを少しでも先に延ばしたいと思って生きているような気がします。

 それでも、やがて来る、最後の時間をおだやかに、感謝して旅立って行くことが出来れば本当にいいと思います。夫にはそういう旅立ちの時間が与えられたような気がしています。そして、いま私自身は寂しい思いはありながらも、あのように平和のうちに夫を見送ることができたという安心感と感謝があります。それは本当に有り難いお恵みだったのだと思います。

 そして、いま私に与えられている仕事や、難病の長男との生活を心新たに、心を込めてやっていこうと思っています。いままでも、それなりにやって来たとは思いますが、やはり、二人の病人を抱えているということは、いつも落ち着くということがなく、いつも何かあれこれ考えて走りまわっていたような気がします。でも、夫が旅立ったいま、私は夫に感謝して、残りの時間を心新たに心を込めて過ごそうと思うのです。

 難病の長男は、口に出すことはありませんでしたが、やはり、義理の父親である夫の様子を見ながら、私に無理を言えないと思っていたようです。いま、それを思うと不憫な気もしますが、数年前のことですが、夫がまだかなり元気だった時に、長男の様子を見ていて、感に堪えないように、「彼は聖人だからなあ」と言ったことがあったのです。それは、本当に有り難い言葉でした。いまはその言葉を大切にして、長男と生きていこうと思っています。そして、いつか長男にあの夫の言葉を伝えてやりたいと思っています。