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心新たに

村田 佳代子

今日の心の糧イメージ

 私のアトリエの棚には、大小いくつかの石膏像が並んでいます。デッサンのための教材で30年以上もの間、多くの中学・高校生が受験課題として描き、写実画を勉強したい人達は、好みの像を持ち出しては、黙々とデッサンに励んでいます。

 ヴィーナスやマルスの胸像、ヘラクレスの頭部など、端正なギリシャものの中で、ひときわ存在感を放っているのが、ローマ時代の実在の王をモデルにした、アグリッパと呼ばれる男の像です。大きな頭と深くきざまれた皺、鋭い眼差しと固く結んだ唇、角度によって高慢に見えたり、苦悩の表情になったり、時には疲労感がただよったりと七変化の像です。

 このアグリッパこそ、聖書の使徒言行録の中で、パウロがカイサリアで対面することになるアグリッパ王です。パウロは捕らえられ、王の前に引き出されます。そこでパウロは弁明することになるのですが、彼はまず自分自身の回心について語り、その貴重な体験に基づいた宣教の内容を語ります。その後、パウロはアグリッパ王に信仰を勧めるのです。聖書では王達の反応について次の様に記述しています。

 "彼らは退場してから「あの男は、死刑や投獄に当たるようなことは何もしていない。」と話し合った。アグリッパ王はフェストゥスに、「あの男は皇帝に上訴さえしていなければ、釈放してもらえただろうに。」と言った。"(26・31〜32)

 パウロが心を新たにした体験は、少なからずその場に居た人々の心を、動かしたに違いありません。

 "それは彼らの目を開いて闇から光に、サタンの支配から神に立ち帰らせ"(26・18)とのパウロの言葉に、王の心は波立ったことでしょう。悲しいような表情に見えることさえある像を前に、心を新たにしたパウロの宣教について、改めて思い巡らせました。