

今から30年程前に、五島の老いた母の若き友人、Kさんよりお便りが届いた。その中に「霊的花束」と書かれた一枚の葉書大の紙が入っていた。何だろうと思ってよくよく読むと
「聖マリアに身をささげる祈り 10回
聖マリアの連祷 10回
ロザリオの祈り 10回」
と書いてあった。これらの祈りを私のために毎日祈ってくださるというのだ。私は感激で胸がいっぱいになった。
すぐにその頃まだこの世にいた老母に連絡すると、老母も感激して、「あらよか、よか贈り物じゃね。Kさんの祈りに背かんごと生きらんばね」といった。78年生きてきて一番印象に残り、嬉しかったのが、このKさんの祈りの花束である。
私もKさんの真似をして入院・手術する友人のために祈りの花束を贈るようにしている。
五島に帰り、ゆかりのじんじ(おじいさん)や、ばんば(おばあさん)に会いに行くと、別れ際、必ずどの人も「美沙ちゃん、祈っとるけんね」と声をかけてくれる。
そのやさしい言葉を聞くと、嬉しくなる。
老母は晩年、身体が弱り、ベッドの上の生活を余儀なくされていた。
しかし、「退屈のこつ(こと)はない」と言っていた。
「祈りがあるもんね、わたしん仕事は今は祈りのこと。ひとりひとりの顔ば思い出して祈っとると。ちっとも寂しなかとよ。すぐそこにおるごとあっとよ」
それは母に限らず、五島のじんじやばんばの真実の言葉であった。
だから、歳を重ねることはちっとも怖くない。