

或る大学の公開講座で詩と童話に関する講座を担当していた時のこと。開講を目の前に、打ち合わせをしている際、大学の教務課の人に「ここに来る受講生の人たちは、勉強や研究をしようというより、居場所を求めて来るのですから、宿題を出したり、講義中、難しいことを答えさせようとかしないでください。」と言われたことがあった。
その時は、なるほど、そういうものかと思っただけだったが、いざ講座が始まって受講生の方々にお会いすると、60代前後の人生経験も豊かに見える、私より年長の方が多かった。人生の先輩方はどんな居場所を望んでいらっしゃるのだろう。想像がつかず、困ってしまった。
だが、真摯にテキストを読み、自分の考えを述べる方々に、私は次第に敬意を覚えるようになっていった。
子育てを終え、仕事も定年を迎えて自由になった時、その貴重な時間を大学の講座で学ぶことに使っていらっしゃるのだ。そしてお一人おひとりの言葉には、謙虚な語り口の中にも歳月を重ねて来た人ならではの洞察力や知恵がある。私はすっかり感服してしまった。
おそらく、私が敬意を抱いたことが、受講生の方々を受け入れたことになったのだろう。回を重ねるにつれ、講座は親しみやすくくつろいだ雰囲気になっていったように思う。テキストの感想に年長者ならではの悩みが滲み出て、受講生が共感し合うこともあった。
物理的な居場所も必要ではあるけれど、本当の居場所は、そこに集まる人々の温かい関係の上に現れる。人は尊敬され、理解されることで満ち足りて、そこに自分自身を憩わせる。この時、私もそれを初めて学んだのだった。