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小さな幸せ

許 書寧

今日の心の糧イメージ

 月に一度、二人の絵本仲間と写生会を行っている。

 写生会の場所は決まって大阪府吹田市にある万博記念公園である。

 そこは1970年に開催された「日本万国博覧会」の敷地を利用した自然豊かな公園で、広大な敷地内では、四季折々の木々や草花を楽しむことができる。

 私たちは1年を通して、のんびり、ゆったり自然と触れ合い、その変化を観察してきた。ただ残念なことに誰ひとり植物学的な専門知識がないので、草花に本当の名前ではなくニックネームを付けて呼んでいる。

 葉っぱの表面がギザギザしたものは「ポテトチップスの木」、炎のような真っ赤な芽を持つものは「ろうそくの木」、まだら模様の木肌が目立つものは「迷彩の木」、ふっくらとした丸みのあるものなら「うさぎのしっぽ」...など。

 写生会を重ねる度に、草花のあだ名のストックがどんどん膨らんできている。いつとはなしに、万博公園の公式マップとは別に、私たち三人にしか通じないニックネームによって成り立つ植物マップができて、園内を歩くだけでも楽しくて仕方がない。

 写生会以外の日にも、見知らぬ土地でふと見覚えのある街路樹に出会うと、途端に「あ、あなたは迷彩の木ではありませんか?」と旧友に再会した気分になって、懐かしい思い出が一気によみがえる。こうした楽しい出会いは、小さな幸せの灯りのようだ。小さいけれども、日々の生活に確かなぬくもりをもたらしてくれる。

 名前って、本当に不思議。

 名前をつけることによって、相手と自分との間に関わりが生まれ、思い出が増え、日常も色鮮やかになる。

 聖書にも名前をつける場面が数多くある。

 それらの中に、幸せのヒントが隠されているかもしれない。