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母の心・父の心

シスター 山本 久美子

今日の心の糧イメージ

 昨年、父が亡くなりました。子どもの頃は、こわくて厳しく、そばにいるだけで緊張したものです。しかし、大人になって親元を離れ、そして父が亡くなり、さらに両親に対して、一緒に住んでいた頃とは違う感情を持つようになりました。

 聖書のルカによる福音15章(11~32)に、有名な「放蕩息子」というたとえ話があります。父親の財産を生前贈与してもらい、放蕩のはて、その財産も使い果たして帰還した息子を温かく迎え入れ、祝宴まで開く父親の広い心、憐みの深さが印象的に描かれています。

 中学生の頃、学校で初めてこのたとえ話を聞き、自分の父親のイメージとは全く違うこの父親の寛大さと、どこまでも子どもを待ち続ける、馬鹿らしいくらいの親の愛に驚き、感動しました。

 20代の時、友人の結婚式に出席し、両親への花束贈呈の場面で、司会者の「母の愛は海より深く、父の愛は山より高い」という言葉に素直に頷けない自分に気づきました。

 そして、親の期待に背いてシスターの道を選んだ私は、両親の、"世間体が第一"のような人間的な価値観や生き方に反発しながらも、少しずつ父や母の立場になって二人の想いに共感し、味わうようになりました。

 両親にとっては、私も「放蕩息子」のような娘だったのだということに気づかされました。そんな私を、変わらない愛情で喜んで迎えてくれた父、母の心は、今の私の心に沁みます。両親とのいろいろな思い出をふり返ると、自分の心のどこかに揺るがない「愛された」安心感や確信をもつ自分自身に気づかされます。

 私自身も成長し、両親のことをいろいろな側面から見る目が育てられ、父の心、母の心を感謝の心で受け取り直したいと思う今日この頃なのです。