

私はいま84歳になりますが、両親のことでも今頃になって気がつくことがいろいろあります。
私は6人兄弟の長女でしたから、いつも何かしら言いつけられて、手伝いばかりしていたような気がしていたのです。
でも不思議なこととして、記憶していることもありました。それは大学受験の時のことです。一浪していた受験の時ですが、ある大学の試験が終わって、廊下に出た時に、なぜか母がそこに迎えに来ていたのです。普段はそんなことをする人ではないので、とっても不思議でした。
でも、最近になって、思い当たることがあるのです。その試験の数日前に、何か母と小さな言い合いをしたのです。母はそれをとても気にしていたのだろうと、今になってやっと気がついたのです。もちろん母はもういませんが、そうに違いないと思います。
そうか、あの時のことを気にして、母なりに、悲しく思って来てくれたんだと思ったのです。そう言ってくれればいいのに、と思いましたが、母は何も言いませんでした。
そして、一番下の妹が私より20歳も離れて生まれたのですが、父が彼女をかわいがる様子を見て、そうか、私たちもこんな風に可愛がって育てられたのか、と納得し、とても暖かい思いがしました。その妹も、今はもう60を過ぎています。
そんな彼女がこの前話してくれたのですが、彼女がうつ病で入院した時のこと、父からハガキをもらったそうです。そこには「思いっきり我儘に療養してください」と書いてあったというのです。
本当に驚きました。なんと優しい思いやりに満ちた言葉だったのだろうかと、もういない父のことを思いました。そんな時、それ以上の言葉があるでしょうか。