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ほほえみ

中井 俊已

今日の心の糧イメージ

 ほほえみについて考えると、実際に見てはいないのですが、一つの場面が鮮やかに思いうかびます。

 昭和23年10月、長崎市の如己堂(にょこどう)での出来事です。

 不治の白血病のために、如己堂という二畳一間の病室で療養していた永井隆(ながいたかし)の元にヘレン・ケラーが訪れました。

 ヘレン・ケラーは、ご存じのように、見えない、聞こえない、話すこともできない障害を克服した人です。

 被爆し病床に倒れながらも本の執筆を続ける隆を見舞うために、地球の向こう側からやってきたのです。

 彼女は、途中、ピンク色のコスモスを一輪手おって、隆の前に立ちました。

 ヘレンはこの時69歳、温かなほほえみをうかべる婦人でした。

 隆は横になったまま、ヘレンに手を差し伸べました。
 ヘレンも手を泳がし、ついに二人の手がふれ合ったとき、「温かい愛情のようなものが体へ流れこんだように感じた」と永井隆は書き残しています。
 隆が家族を紹介すると、ヘレンはにっこりとしながら、幼い娘、茅乃(かやの)のセーターにコスモスをさしました。

 このヘレン・ケラーの訪問は、永井親子に心温まる平安のひと時と、忘れられない思い出を残しました。

 さて、ほほえみの大切さについて考えてみましょう。

 もしもいま、私たち自身や家族、親しい人の病気、あるいは災害や争いなどで、心が折れそうになる時、この素晴らしい愛となりうる、ほほえみを実践してはいかがでしょうか。

 ほほえみは、ほほえみを生みます。悲しむ人の心を癒し、喜びの光を与えます。友情を育て幸福をもたらします。

 マザー・テレサは、「平和はほほえみから始まります」と言いました。

 ほほえみをともなった愛の一言、小さな行いが、相手を愛で満たし、平安や平和を生み出すでしょう。