「人生七十古来稀なり」(じんせいしちじゅうこらいまれなり)と中国唐の詩人杜甫がよんだ七十歳を迎え、体のあちこちにトラブルが生じるようになりました。
一昨年は駅のエスカレーターで転倒し、人生初の骨折を経験しました。さらに昨年は、健康診断で食道がんが見つかりました。死を覚悟し、病者の塗油を授かって手術に臨みました。幸い手術は成功し新しい年を迎えることができたことに感謝しています。
2019年に来日された教皇フランシスコは、羽田空港に出迎えた高校生に「歩みなさい、そして転びなさい」というメッセージをくださいました。転ぶことは単なる失敗ではなく、新たな発見につながることを教えてくださったのです。
七十歳の私にとって転ぶことは一大事です。それでもこれらの体験はまたとない恵みの機会となりました。折れた鎖骨を固定しながらの不自由で痛みを伴う生活は、当たり前と思って過ごしてきた日常のありがたさに気づかせてくれました。がん治療のための入院生活では、病と闘う大勢の患者さんと知り合うことができました。暖かく見守り、全力で治療に当たってくださった医師、看護師、病院関係者の皆様のお姿は、たくましく神々しく思えました。
「七転び八起き」という言葉があります。
転んで起き上がるまでをセットで数えると、「七転び七起き」ではないのかな?などと、不遜にも思っていました。しかし術後の痛みの中、ベッドに横たわっていて初めて、神の愛ゆえにこの世に生を受け、皆様の支えによって起き上がることができた一回目を数え忘れていたことに、この歳になってようやく気づくことができました。
転んでも起き上がり、でもできれば転ばぬ先の杖に心掛けて、今年一年を歩んでゆきたいと思っています。