私の机の上に置いてある国語辞典によれば、「おすそ分け」のことを「もらった物や利益を他に分けあたえること」と」書いてある。そして同じ意味の言葉として「お福分け」とも書いてある。
「おすそ分け」と言う言葉は日常時によく使われてなじみが深い。
40年ほど前に、他県の私の読者より贈り物が届き、手紙が入っていた。その中に「孫が生まれたのでお福分けです」と書かれていた。
「お福分け」何といい言葉だろうと思ったことをよく覚えている。それで私もその人の真似をして、自分にいいことがあった時「お福分け」を行なっていて、その度に心楽しい。
思えば、私の五島の生家は年中、お福分けをしていた。
母はまとまったお金が入ると、洗濯石けん、化粧石けん、チリ紙、サラシ木綿など日用品を大量に買いこんでいた。
人が来ると、「洗濯石けんはあるとか?」、「チリ紙はあるとか?」と訊き、「なか」と答えた人には分けてあげていた。
汚れた顔や汚れた手足の子が来ると「これば持って帰って、かあちゃんにお湯ばわかしてもろうて、洗うてもらえよ」と化粧石けんをあげていた。
母の兄は長崎在住で大企業に勤めていた。ボーナスが入ると、現金収入の乏しい我家に大きな木箱で梨やりんごなど送られて来た。
すると、母は来る人来る人におすそ分けし、我家の分が少なくなってしまうのだった。
私と弟が母に文句を言うと、「なんの、長崎のおじさんはみんなに分けるごと送って来たとよ」とすました顔がいった。
我家流の「お福分け」を母は教えたのだった。