アメリカの独立戦争のさなかのことでした。民間人の服装をした一人の男性が、戦場の第一線を訪れました。途中、ぬかるみにはまり込んだ馬車を押し出そうとしている兵士たちに出会いました。
2匹のロバが前から引っ張り、4人の兵士が後ろから押していますが、馬車はピクリとも動きません。伍長がその脇に立って、ひどく怒っています。大声で号令をかけて、兵士達が起こしてしまった失敗に腹を立てていました。
この仕事が4人では足りないことは、通りがかりの彼にさえも、はっきりわかることでしたが、その伍長は手伝おうともせず、ただ大声で怒鳴るばかりでした。そこで彼は、「なぜ、あなたは手伝わないのですか?」と、できるだけ穏やかに伍長に尋ねました。伍長は「私は士官ですよ。指揮をするのが私の役目であって、仕事をする必要はありません」と答えました。「失礼しました。よく知らなかったものですから・・・どうかおゆるしください」と彼は詫び、と同時に、兵士達の中に入って力を貸しました。そのおかげでしばらくすると、馬車はめかるみから抜け出して、固い地面の上にのりました。手伝った彼は泥だらけになりましたが、「うまくいって良かった」と、にこにこしながら兵士達に喜びの言葉をかけました。それから伍長のそばへ歩み寄りこう言いました。
「指揮官殿、よく仕事をしたと、兵士達を誉めてやって貰いたい。そして、今度またこんな仕事があって人手が足りない時は、知らせてくれたまえ。私は総司令部にいる。ジョ ー ジ・ワシントン将軍をと、言ってくれるだけでいいからね。」
伍長はびつくりして口もきけません。立ち去って行く彼、最高司令官の姿を見送りながら、身じろぎもせずにつっ立っていました。
*アーカイブスを再収録しました