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生き抜く

古橋 昌尚

今日の心の糧イメージ

 「生き残りの者」はイスラエル民族の大きなテーマです。かれらは過酷な現実のなかで自らの運命を神への信仰に委ねて生き抜いた人々です。

 イスラエルは時代が移れど、エジプト、ヒッタイト、アッシリア、バビロニア、ペルシアなどいつも列強国に翻弄されながら生き残ってきました。

 ヨセフは隊商に売られエジプトで生き延びます。モーセは川から引き上げられ幼児殺害から生き残ります。タマルは火刑から逃れ、ナオミは飢饉を逃れてモアブへ移住し、ルツはベツレヘムに姑と移り、ボアズの好意で生き延びます。ダビデもサウルの手から逃れ、後に自分の罪に下される罰からも生き延びます。因みに原初史でもアダムとエバが楽園から追放され、ノアも洪水を生き延びます。

 物語のたびに挿入される系図は、イスラエルの民がいかに生き残り、苦難を生き抜いてきたかの記録です。その背後には、彼らを支えてきた人々の物語が無数にまとわりついています。そのうえで今日ある世界が成りたっています。

 これは数千年前の地球の裏側の話に留まりません。私たちすべて、あらゆる民族や国民にも当てはまります。現在ロシアのウクライナへの侵攻、イスラエルのガザへの攻撃においても日々犠牲者とサバイバーの話が伝えられます。地球温暖化による異常気象、それに伴う自然災害、災難からのサバイバーは数えきれません。私の親族も東京大空襲を生き延びて、今の自分があります。

 第2次世界大戦でユダヤ人大虐殺を生き延びた精神科医ヴィクトールフランクルは、自ら生き残った恵みに相応しく生きていこうと誓います。

 あらゆる苦難を生き抜いた人々に思いを馳せ、身近なサバイバーの人生をじっくりと噛みしめたいです。