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生き抜く

松浦 信行 神父

今日の心の糧イメージ

 昔、私が神学生たちの初年度の合宿所、ガリラヤの家にいた頃です。
 近所にある女子トラピスト修道院をよく尋ねに来る禅寺の住職がいると、その修道院のチャプレンである神父から聞きました。

 その方は、「道を求めるものに宗派は関係ありません」という考えで、同じく「道を求める」シスター方の祈りにとても興味を持っていました。そして、「どこかで祈ってくれる人がいるという現実は、知らない間に我々に力を与えてくれる貴重な存在だ」と、修道院で作っている西洋のクッキー「ガレット」を、自分の檀家へのお礼にと、よく買っていかれました。

 私も、その様な人に、神父の卵である神学生たちに直に語って頂きたいと、毎年一度、そのお寺を訪問する機会をチャプレンから頼んで貰っていたのです。

 一見、周りに何も影響を与えていないように見える「祈り」が、実は力強く人に影響を与えている不思議な状況を、神学生たちに味わって貰いたいからでした。

 そのガリラヤの家から離れて暫く経ったとき、信者さんから一本の電話が入りました。

 「妻が何も食べてくれないのです。病院にも行こうとはしません。どうしたらよいでしょうか?」

 その人はとても誠実な人で、出来事をじっくりとすべて受けとめるような人でした。

 だから私も、その方の何らかの役に立ちたいと、前に出会った精神科の医者の電話番号を教えて、「その医者に相談して下さい。私は祈り続けますよ。」と電話を切ったのです。

 二、三日して、「やっと妻がかかりつけの医者に行くと言ってくれました。」とほっとした声の電話が入ったのでした。

 真剣に誠実に祈ること、それは確かに物事を動かすようです。