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生き抜く

シスター 萩原 久美子

今日の心の糧イメージ

 数十年も前になりますが、私はある高齢者施設でご奉仕させて頂いていたことがあります。そこを利用されていた高齢者の皆さんは、体験の度合いは違えども、戦争や原爆を体験されてきた方々でした。その体験は、私が知る苦難や悲しみの域を超えたものであり、簡単に克服するとか乗り越える、と言えないようなものばかりでした。でも、そうした体験を生き抜いて、「今、ここに」いる方々でもありました。

 戦争や原爆の体験を伺うと、皆さん最後には必ず「私だけが苦しかったわけではない。みんなそうだった」「みんな、同じような体験をしている」と言われました。

 "私だけではない"。「お隣さんが大変そうだったから、食べ物を分け合って食べたよ。」「空襲で家が焼けた人を何日も泊めてあげたこともある」など、それぞれができることを行いながら、共に苦難や悲しみを生き抜いてきた姿がそこにありました。様々な体験を伺いながら、人はどんな時でも他者に目を向ける力を持っており、壮絶な人生を生き抜く力は、そこにあったのかもしれないと感じたのを覚えています。

 私たちは、他者の「助け手」である存在として神様に創られました。苦難や悲しみは、自分自身が克服したり、乗り越えていかなければならないものなのかもしれません。でも、それが"自分だけ"であれば、自己中心的な生き方になったり、時には自暴自棄になる可能性もあります。しかしその時、「助け手」としての自己の存在と、「助けられている」自己の存在を見出した時、生き抜く力が湧いてくるのかもしれません。

 生き抜く力は、戦いのための力ではなく、人と人とが手を取り合う平和な世界を築いていく力になっていくのかもしれません。