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生き抜く

松尾 太 神父

今日の心の糧イメージ

 草むらの中を必死に駆け抜けているのは、ダンゴムシ!子どもたちのおててから逃れようと全力疾走!がんばれダンゴムシ!でも、はや...くないぞ!全然逃げ切れません。あえなくつかまってしまいました。あわれダンゴムシはもはや観念して丸まるのみです。そのまま虫かごへ放り込まれると「おや、おまえもかい。」なんとそこにはすでに仲間がいっぱいでした。

 夏の園庭の草むらでは、毎日壮絶なオニゴッコが繰り広げられています。子どもたちにとってはお遊びですが、虫たちにとっては命がけのサバイバルです。強くなければ生き抜くことはできません。これぞ弱肉強食の世界。かと思いきや、ひとりの一年生の男の子が、休み時間が終わり教室へ戻る前に、虫かごのフタを開けてつかまえた虫たちを放してやっています。

 「逃がすと?」と聞くと、「うん。早くいけ。」

 「情けはご無用!」などとは決して言わず、ダンゴムシやバッタたちは勢いよく外へ飛び出していきました。

 子どもたちも虫たちも、いのちの大切さをよく知っています。「だいすきよ」「いのちを大切にしてね」親や先生たちから受けたいのちを満たすことばは、子どもたちの中で生きています。古代イスラエルの預言者アモスも、見せかけの繁栄で心が曇りいのちの輝きを見失っているイスラエルの人々に向かって叫びます。「生きよ!」(アモス5・4)

 わたしたちは、一体どんなことばに支えられて、困難をのり越え生きてきたのでしょうか。虫を逃そうとしている子どもがかけたような、やさしくまっすぐな情け深いことばがわたしたちの心に輝けば、どんな悲しみも苦しみものり越えて、生き続ける勇気が湧いてきます。